CHAPTER 031

『笹まくら』とLe Déserteur

八月にNHKのドラマでやっていた丸谷才一の『笹まくら』。この作品は戦争忌避がテーマとなっている。浜田庄吉は軍隊に行くことを(死ぬのが怖いというよりはどちらかといえば政治的に反発して)拒み、杉浦健次という名前をかえて逃亡生活を送る。その間ある阿貴子と知り合い、恋仲になり共に過ごす。戦後になると東京にもどって教員の仕事につく。

 


物語は阿貴子の訃報から始まる。その喪主が彼女の母の名前であることから、阿貴子は離婚したのだろうと察する。戦後になり東京に戻る前に阿貴子と一緒になることも考えたが、彼女の方から親元を離れるわけにいかずお見合いをすると言われ、二人は別れたのであった。

 


戦争中は犯罪者だが、終われば罪には問われない。しかし「自分達は軍人として辛い思いをしたけど、あいつは逃げた」という思いをもたれることもあるし、浜田もそれを感じる。浜田が理事長のはからいで出世する機会を得た時、一部の同僚が彼の戦争忌避をまわりにバラす。彼は地方の高校に左遷の命をうけ教員を辞めようと考える。(理事長に紹介された)彼の若い妻は必死にそれを止めようとする。

 


ところどころジョイス風の<意識の流れ>を用い、逃亡中の阿貴子との出会いや生活、(逃亡した後に白い目で見られた)家族や友人との関係など、様々なことが出てくる。教員仲間との和歌の話をしていて出てきた、藤原俊成女の和歌がタイトルの元になっている。

 

 

これもまた かりそめ臥しの ささ枕 一夜の夢の 契りばかりに

 

 

草枕、旅枕。一夜限りの関係ということになるけれども、浜田にとって戦争忌避は一夜限りというものではなく、その後の人生にも関わり続けている。やがて数少ない味方であるはずの妻にも大きな秘密があったことを知る。

 

 

終盤、出征前夜のご馳走を準備する母親に「ちょっと出かけてくる」と声をかけ、杉浦健次と書かれた名札のついた荷物を持って逃亡した日を浜田は思い出す。生まれ育った町の風景を見ながら「さようなら」と声に出さずに呟く浜田。しかしそれが何に対する別れなのか、20歳の若者にはまだよくわかっていない。

 

 

さて音楽の話。Le déserteur、『うたかたの日々』でおなじみのBoris Vian作曲。<脱走兵>と訳されているが<戦争忌避者>という意味が正しい。「大統領閣下、私は戦争に行きたくありません、誰も殺したくないんで逃亡します」という戦争の嫌な記憶を書き連ねた歌詞で、最後には「私は武器をもってませんが、(私を捕まえるならば)部下に発砲させて結構です」と終わる。のんびりしてるけれどどこか寂しげな曲調だ。Georges Brassensなどフランス人歌手も多くカバーしてるが、日本人でも高田渡氏、沢田研二氏が日本語の歌詞で歌っている。ジュリー(沢田氏)はかなり直訳に近い詞で歌っているが、高田氏は『おなじみの短い手紙』という題名で歌詞も自分なりに解釈した反戦歌となっている。興味あればぜひチェックを。

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