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『国のない男』とジミ・ヘンドリックスのThe Star-Spangled Banner
『国のない男』というカート・ヴォネガットの晩年の随筆集がある。彼の随筆の中でこの作品は特に好きでたまに読み返している、
時代は2000年代前半、9.11テロ後にイラクを攻撃するアメリカについて論じていることが多い。「アラブ人は愚かだと?じゃあ(アラビア数字抜きで)ローマ数字で割り算をやってみたらいい」、「ブッシュは敬虔なクリスチャンだって?ヒトラーもそうだった」などなど、の皮肉めいたアフォリズムが時おり出てくるのはまさしくヴォネガットらしい。前にもここで彼の作品を取り上げた時にも書いたと思うけど、ヴォネガット自身、第二次世界大戦でドイツのドレスデンで捕虜として捕まっているときに米英軍に空爆にあい死にそうになっている。<アメリカのために>軍人になった<アメリカ人>である自分が、<アメリカ軍>に殺されそうになるという状況を呆れたように振り返る。
多くの軍人が戦争について語りたがらないように(と、彼は言う)、彼自身も戦争の記憶を具体的には語らないものの、徹底的に反戦の姿勢を示す。戦争を経験した男は強い、みたいなマッチョ的思考に満ちた親戚のおじさんが第二次世界大戦後に帰国した彼に「これでようやくお前も一人前だな」などと言ったらしい。<そんなわけで私はおじさんを殺した。いや実際にはしていないが、間違いなく殺したいと思った>と続ける。
こんな皮肉と批判ばかり取り上げてると陰湿な本だと思われそうだけど、若者や未来など様々な方向にむけて愛情とユーモアあふれる表現が出てくるのもヴォネガット風だ。もう一人の親戚のおじさんについての描写。かつて二人でリンゴの木の下でレモネードを飲みながらおしゃべりをしていたとき、彼は「これが最高じゃなきゃ、何が最高なんだっていうんだ」と気分よさそうにつぶやいたという。そしてヴォネガットは続ける。
<みなさんにもお願いしたい。どうか幸せなときには幸せなんだと気づいてほしい。こんなふうに叫ぶなり、つぶやくなり、考えるなりしてほしい>
彼の友人、グラフィックデザイナーのソールへの質問も面白い。ソールは誰よりも賢くて大抵の質問に6秒あれば答えるという。まるでチャットGPTだが、中身はそれより味がある。
「ソール、ピカソをどう思う?」
「神が彼を地上に送り込んだのは、真の意味でのお金持ちとは何か、を教えるためだ」
「ソール、君には才能があるかい?」
「ノー。しかしどんな芸術においても大切なことは、自分の限界といかに向き合ったか、ということだ」
いかん、引用したい箇所が多くて困る。さてさて音楽の話。ヴォネガットのアメリカ批判、そして先月始まったイランでの戦争で思い出したのはジミ・ヘンドリックスのウッドストックのアメリカ国歌のソロ演奏だ。当時ベトナム戦争に対する批判を込めて演奏されたといわれ、まるで爆撃の音や何かが破壊されるような音も多く含まれる。個人的に前衛音楽もノイズミュージックも普段は苦手なんだけど、ジミ・ヘンドリックスは最高にカッコいいと思う。よく音楽雑誌のギタリストのランキングでジミヘンが一位になっているけど、否定する気は毛頭ない。Voodoo chileのイントロでも、ちょっとしたときに入れる#9のコードでも、どんなことでもグッとくる。そんな人、他にはビレリぐらいかな。ちなみにアメリカ国歌を弾き終えた後もそのまま一人で即興演奏を続けるけど、ギターが三味線のように響いたり、一種の民族音楽のように聞こえる。もちろんカッコいい。
余談だが、先日誰かが「戦争がなくなりますように」と書いて炎上したというニュースを目にした。炎上させたという批判内容を目に入れる気もないが、2020年代半ばの人々が匿名性に隠れた無責任な発言でどれだけ下品で愚かだったか、後世の人達が笑い飛ばしてくれることを心底祈る。逆に同じ頃にはトランプもネタニヤフもプーチンも「あの頃、一部の日本人がおれたちを応援してくれていたんだな」と喜ぶかもしれない。もちろん地獄で。
不条理に望まない形で、その後の人生を大きく変えられてしまう人が一人でも少なくなるよう、一刻も早くあらゆる戦争がなくなりますように。
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